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いまさら翼といわれても

『いまさら翼といわれても』
米澤穂信
☆5

昔、中学か高校くらいの頃に同著者の『ボトルネック』を読んだことがあり、それはあぁなんか良かったなぁくらいだった気がする。

本書は、非常に好きだった。

類を見ない傑作、という訳では無いが「作品(音楽、映画、漫画、アニメ、小説...etc」というカテゴリーで考えるならば☆は間違いなく5であろう。

小説だと高評価が出やすい傾向が映画より明らかにあるのだが、その理由は多分、基本的に小説の方が個人的に優れてると思うことが多いからである。


実はシリーズ物であることを、今知った。
ということは、前作を読んでいなくても問題ないということだ。
シリーズ一作目の『氷菓』というのは、私も名前くらいは聞いたことがある。

尚、粗筋は省く。

よくよく考えたら小説に粗筋が必要な理由は以下の二点に限られると思ったからだ。
・その本を多くの人に読んで欲しいという気持ちがある
・商売的な意味での販売促進

本書も一つ前の書評の本も、そういった感情が強くはない(一つ前のは書いてしまった)ので、省く。


感想として一番最初に来るのは、良い。であろう。
というか高評価を付ける作品の多くの感想は、「良い」の一言に集約される。

これは私だけかもしれないが、「応援したくなる」ものは良い作品である。我ながらこれは不思議な感情である。
本書の良かった点の一つがその応援したくなる感、であった。
不思議である。

二つ目は、身近なミステリー感、である。
私はミステリーが嫌いという自負がある。
それは今まで触れてきたミステリーが尽く私に合っていなかっただけという可能性もあるが、少なくとも私は私が知る限り、ミステリーが嫌いなのだ。

本書はミステリーちっくな側面が多々ある。
しかし、そのミステリーというのはどれも些末な(珈琲が甘すぎることの謎など)ものであり、そのどれもが経験してきた、若しくは経験し得るようなことであった。
刑事、探偵もの、のような広大な世界観で繰り広げられるミステリーは肌に合わないのだが、日々の疑問に近いようなことに焦点を当て、それが紐解かれていく様は、単純に読み心地が良い。

三つ目は、登場人物の個性である。
これを高く評価すべきかどうか、は非常に難儀な点で、共感装置が働いたか否か、という議論に終始してしまう恐れもあるのだが、飽くまで個人的な好みという意味では重要だったように思う。

一つ前に書評した『羊と鋼の森』と実はこの点は同じで、登場人物に対しての違和感が無かったのだ。
つまり何が言いたいかというと、舞台装置として置かれているキャラクターではなく、キャラクターそれぞれに主体性や一貫性(これを是とするか否とするかは別の論点になるが)があり、著者の恣意性から離れた部分で作品を味わえる、という点である。

私はこれを没入感(作者と作品と我々現実世界、を如何に切り離すことが出来るか)を産む要素の一つであると考える。
私はどちらかと言うと、著者の美的感覚を前面に押し出した作風に対する没入感の方が得やすいタイプなのだが、逆に、こういった作品で没入感を得たことが余り無かったと記憶しているので、凄く新鮮で読書中も読後感も非常に良かった。

小説を読んで思ったことは、私の場合こういった共感装置みたいなものが働くのは小説が一番強いのではないか、ということである。

言葉だけしか認識出来ない分、見遣らなくて良い部分には目を瞑り、読者側に委ねられる余白が多い。
小説というものが
そう在るべきか、と問われると私はそう思うとは限らないが、
どう読むべきか、と問われると私は私の自由に読むべきだ、と考えるので相性が良いらしい。






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