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万引き家族

万引き家族
☆5
是枝裕和

非の打ち所のない傑作である。

「今の文章はTwitterで十分、ステージでわざわざ言うことじゃねえ」
という蛇(ラッパー)のバースがあるが、これを存分に感じる作品。

なるほど確かに、この作品をそのまま言葉で表そうとすると何度試行を重ねてもズレてきてしまうのだ。
それは何故か。

それはこの作品が1~10までの3や7に固執した表現が多いからである。
極論をするのは簡単であり、1や10の尖った作品ほど、140字程度の要約で"観た気になれる"。

我々人間の居所は1や10ではない。
3や7を葛藤して常に方向性を模索している。
何が善くて、何が悪いか
何が正しくて、何が間違っているか

この作品のヒットした要因は、そんな【メッセージ性のリアリティー】であろう。

作品に対して求める理想形から外れているからこそ、打ち付けられるものがある。
この作品は作品から逸脱して我々の実生活にまで降りかかって来るのだ。

この作品にはこれまで作品にならなかった"現実"や"愛"の形があるのだ。

即ち、"定量化された愛"と"定量化された罪悪感"がそこにはあるのだ。
そして本作のメインテーマはこれである。
本作のテーマは格差社会そのものではなく、その格差社会で過ごしている人間の心情である。

感想はここで終わり。

ここから書くのは定量化された愛についての話である。
【ネタバレ】を含むので未聴の人間は今すぐブラウザバックして本編を観るべし。























【愛と罪悪感の定量化について】
定量化された愛と定量化された罪悪感が顕著に表現されているのは終盤の、息子が病院にいる時に夜逃げしようとする場面である。
そして物語は、バスに乗った息子を必死で追いかける父親とギリギリまで振り向かない息子というシーンで閉幕する。

まず、本作では父親は息子に対して愛がある。
自らの名前を付けるほど、可愛がっているのである。
「それ(万引き)以外、教えることが出来ないんです」
という台詞からも判る通り
父親は息子に対して何かを教えて育てるべきだ、という"教育観だけ"は持っていることが分かる。

本作では、登場人物の感情の起伏に整合性がない部分が散見される。
そんなに怒ることか?
なんか機嫌悪くない?
と、そういう部分が垣間見えるのだ。
あと、寝転がって仕事に行かないシーンやダラダラしてるシーンも散見される。

この映画のリアリティーはここにあって、これは紛れもない現実の人間の感情そのものなのである。

しかし、"そのリアリティーを殺してまでも一貫していたのが父親の息子に対する愛情"なのである。

そんな不変的な愛に綻びが生じたのは、
「助けてくれたあの時も何かを盗もうとしていたの?」
「…いやー、あん時は助けることしか考えてなかったよ」
のシーンであり、
更に決定的なのが"夜逃げ"のシーンである。

あの瞬間に【愛は自衛に劣る存在】となったのだ。
しかも、その後の父親と息子のシーンでは
「逃げようとしたの?」
「…ごめん」
という一言で済まされている。
ここに罪悪感の定量化がある。

本来、愛をテーマにした映画だとこのシーンはもっと徹底的に罪悪感を持つ様相を呈するのだ。
しかし、本作では1や10ではなく、犯罪を犯すほどの貧困層の心情描写に徹底的なリアリティーを追求している為、"ごめん"の一言で、それ以降一切の罪悪感は登場しないのだ。

更に、この映画の最も優れているシーンはラストである。
ラストシーンは父と息子の別れである。
バスに乗った息子はギリギリまで走ってきている父のことを振り返らない。
そして振り返った息子の見た先に【視点を移さずに】閉幕する。

ここがこの映画の最大のポイントである。
普通の映画であればこのシーンの解釈は
よくあるビターエンド
となりそうなものだろう。

しかしこの映画においては違う。
このシーンは【定量化された愛(父親と息子の距離感)】を明示しない、ということなのだ。

これは学を全く持たず、犯罪を繰り返してきた父親が、どの程度の愛情、良識、罪悪を持っているか、それが際立つラストとなっているのだ。

だからこそ映さない。
その距離次第で、愛の深度が確定してしまうからである。
(普通である)我々はそれを知る由はないのである。


最後に、この映画が描きたかった人間像の想像をする。
この映画を短絡的に観ると
「愛より金の方が大事」
と解釈してしまう危険な人がいそうである。
そうではないのだ。
この映画は
【ある程度の金があれば、愛を大切に出来る】
ということなのだ。

その証拠に、この映画の登場人物は一度として
「金持ちになりたい」
と発していないし、そういった描写も存在しないのだ。
飽くまでこの映画は"金と愛のバランス"の映画なのだ。








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