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イシュタム・コード



イシュタム・コード
川口祐海
☆4.0

久しぶりに小説を読んだ。
これは毎回思うのだが、やはり文字媒体は良い。
それがどんな内容であっても、文字媒体というのは私に何かしらの活力というかそんなものを与えてくれる。

映像媒体とは違った良さがある。なんだかんだで、私にとってはどちらも欠かすことの出来ないものなのだろう。

さて、小説の書評は難しい。
難しいというか、言葉に対して"評する言葉"を用いる訳だから出来るだけ錯誤(むしろ自分自身に対して)のないように言葉を扱っていきたい。

この作品は、とりわけ書評の難しい類であると感じる。

[あらすじ]
イシュタムとは自殺を司る女神のことである。
言うなればこの作品は、生死にまつわる考え方の話である。

[文体の特徴]
主人公の少年期から成年期までを描くのだが、視点が主人公の物語なので年齢に応じて表現も変わってくる。
なので序盤は、文才に欠けるものがあるのではないか、と感じてしまう側面もあるかもしれないが私はあまり気にならなかった。
むしろ児童文庫の類は好きなので、これはこれで良いなと思ったのが正直なところである。
歳を重ねるにつれてその懸念も杞憂に終わることになるのであまり問題はない。
文体の個性で言えばほとんどない。

評価点①
構成が良い。
構成という観点で言えば☆5である。
ここで言う構成とは、主題(メッセージ)に対する話の組み立て方のことである。
時間軸がプロローグに戻るタイプの作品で、それに気づくとこの小説は作品自体が手記として完結していることが分かる。
主人公である少年の性質と成長を見届けながら我々読者は"共に思考を繰り広げる"。

評価点②
序中盤が良い。
少し好みの話をさせてもらおう。
何かを評するときにどれだけ主観を入れるか、ということについては慎重に行わなければならない。
客観的になりすぎればそんな書評はAIに任せれば良いと感じてしまうし、主観を入れすぎればそれは"感想"へと落ち着いてしまうからだ。
この作品の序盤が良かったことは中盤になると分かる。
大きな転換点があってそうなる訳ではないのだが、潜在的に摺り込ませてきた命題というものがハッキリしてくる。
中盤は命題に対しての追究で、問答式の場面は主人公視点に立っていた読者からすると熱が入るところであろう。
この場面がとても秀逸で、既に組み立てられた自我に驕りそれを発散するだけの我々に、赤ん坊のような感覚を植え付けさせる。
小さいものの上に大きいものを乗せるとバランスが崩れることに"疑問を持つ"か"当たり前だと思う"か、その違いが生産的思考が出来るかどうかの境目になるのではないだろうか。

評価点❸
終盤が微妙。
中盤のヒートアップとは違うベクトルで、物語の整合性が重視されて結末を迎えているような感覚を覚えた。
私はどちらかと言うとこの作品のベクトルならば、物語風哲学書のような挑戦をしても良いと思ったのだ。
思考というのは破壊と再生の繰り返しによって洗練されると思っている。
一生懸命積み上げたつみきを壊しては組み立てることを繰り返す、仕舞いには家中のものを使って組み立てる。
そんな"赤ん坊の衝動"こそが思考の本質ではなかろうか。

大人は積み上げたものを活用しようとしてしまう。
しかし哲学というのは積み上げ続ける行為そのものではないだろうか。
高くなりすぎて背の届かなくなった頃合いには、それを壊すべきなのだ。

そういう既成概念から外れた画角を、今度は是非見てみたい。



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