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終末のフール

終末のフール
伊坂幸太郎
☆5.0
伊坂幸太郎の"数年後に世界が滅びる"という世界観だけが統一された短編集。
一つずつ感想を書いていこう、と気合いを入れてしまったのでそうしていく。

①終末のフール
☆5
素晴らしい。
世界が終わる、という全人類に平等に与えられた"死"という世界観と、公園のベンチに座っているような初老夫婦という平凡性のコントラストが美しい。
私はリアリティーという言葉を良く使うのだが、このリアリティーという言葉の意味は
「登場人物の動きが、その世界観に随って行う必然的な営みかどうか」である。

世界観がダンジョン系RPGであっても良いし、何だって良い。世界観そのものはリアリティーの形成条件を確定させる素材でしかないのだ。

そのことを踏まえた上で、この一作目はリアリティーの化身であると言える。
心情描写が非常に丁寧で、世界の終わりを三年後に控えた頑固一徹な主人公、それに対する周りの反応、全てが必然的だ。

また、個性的でない文体も良い。
たとえば西尾維新や森見登美彦なんかの文体は個性的であると思う。
森見登美彦はほとんど知らないが、西尾維新なんかはその文体で"キャラクター全てが西尾維新の投影"であるかのような雰囲気を醸し出すのだ。
基本的には主人公が作者の投影であるわけだが、特徴的な文体はその存在性の強さによってそれが"キャラクター全てに散らつく"という訳である。

一作目はその真逆で、キャラクターの必然性に寄り添って言葉が使われるものだから、まるで別世界でありながらもそこに世界が確かにあって、"その一部分を単純に切り取っただけ"というようなリアリティーが生まれているのだ。

つまり、没入感のために邪魔である作者の存在を感じさせないという訳だ。

②太陽のシール
☆4.5
これも良かった。
①と同様に
我々の普段の生活が
「世界が数年後に終わってしまう」
という条件が加わることで
果たしてどういう風に変化するのか、というリアリスティックな切り口だと思う。
"1時間後"でも"明日"でもないのだ。
"あなただけ"でもないのだ。
数年後、全人類に、なのだ。
それが良いじゃないか。
今作は妊娠の話だった。
「おめでとう」となる話が、世界が終わるというスパイスが加わることで考え込む。
一挙手一投足に思考を張り巡らせる、あるいは何もかもを放棄したくなる。
そんななかでも世界の終わりがしつこくないのが良い。
頭の片隅に世界の終わりがあって、"当たり前の選択"が"当たり前じゃなくなる"。
それが良いじゃないか。

③籠城のビール
☆3.5
伊坂幸太郎の悪いところが出ちゃいました。

実は私と伊坂幸太郎との出会いは最悪なものだった。
中学の頃、友人に伊坂幸太郎が好きな人がいて貸してもらったのだ。
『陽気なギャングが地球を回す』
返すときに私は言った。
「人生で読んだ本の中で一番つまらなかった」

ここからは私の趣向の話になるので、そういうものだと思って読んで欲しいのだが
私は
【照らされるべくして照らされる存在を描いた小説】
が好きじゃない。

日本語を使った嗜みというのは
"日常的認識の言語化による非日常との邂逅"だと思っている。
"銀行強盗を目論むギャング"がドラマ仕立てになることは必然的であり、そこに何の面白味があるというのだろう。

今作はまさにそれで
ジャーナリズムと世間のニーズに殺された妹のための復讐、という照らされるべくして照らされる発想がもう面白くない。
どうしても、照らされるべくして照らされる題材は、ドラマや映画として乱作されてきたばかりに
「作られたもの」
という感覚を植え付けてしまう。
作られたものはリアリティーとは正反対の存在になる。
"リアリティー"の対義語は"ファンタジー"じゃない。
"アーティフィシャル(artificial=人工的)"である。

だって私たちはそのとき、作られたものという"その世界に忠実ではない感覚"を抱きながらそれを観測しているのだから。

④冬眠のガール
☆4.5
ええね。こう、なんというかええね。
特に終わり方がめちゃくちゃ好き。
連続的に流れてきた映像が、突然スナップ写真としてストンと落ちてくる感じというか。
終わり方がとにかく秀逸。


⑤鋼鉄のウール
☆4.5
いい。良い意味で伊坂幸太郎っぽさがある。
伊坂幸太郎っぽさとは何ぞや、ということは『陽気なギャングが地球を回す』と『グラスホッパー』からしか推測出来ないのだが。
こういう昭和っぽさのある格闘技系は好き。
「あなたはどれだけ生きるつもりで生きているんですか」
という台詞は良いよね。

⑥天体のヨール
☆5.0
これ覚えてる。漫画版だけ昔に読んでるんだけど覚えてた。
これ漫画版で一番好きだったんだよね。
なんかこれだけ淡々としてるというか、叙情的じゃないのが逆にいいと言うか。
プロット上の抑揚に比べて、表現上の抑揚がない感じが凄く好き。

⑦演劇のオール
☆5.0
良かった。
『紀子の食卓』と設定が似ていてビックリ。
こういう話は好きだな。
私も、同じような状況になれば擬似家族みたいな生活をするようになる可能性はあるんじゃないかなぁと思う。

⑧深海のポール
☆5.0
死ぬほど良かった。一番良かった。
うぅ。
めっちゃ良かった。
うぅー。
なんかすごく良かったな。すごく響いた。
父親に
「知らねぇよ、バカ」
とぶん殴られるところとかめちゃくちゃ響く。

総評
めちゃくちゃ好きだった。
一つのジャンルとして流行っても良いくらい。
伊坂幸太郎の良さの一つとして読みやすいってのがあって、私は文学とはなんぞやとか語る人は大嫌いなのだけれど読みやすいけど文学なんだよね。

良いバランス感と言えば良いのかな。

んー、これが一番良いと思うけどなぁ。他ほとんど読んでないけど。




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